ラフ・シモンズはデザイナー

クリスチャン・ディオール亡き後、フランスの人々は偉大なるDiorブランドが失われるのではないかということで大いに悲しんだそうです。そんな中、ディオール亡き後の最初のコレクションが発表された時、人々は偉大なるディオールの後継者が誕生したことを理解したそうです。そう、弱冠21歳のイブ・サンローランによって偉大なるディオールの伝統は受け継がれたのです。

時は経て、酔っ払ってアホな発言をしてしまって、文明の利器によってそれが拡散されたことによりDiorを去ったジョン・ガリアーノの後を継いで、ラフ・シモンズがDiorのアーティスティックディレクターに就任して、お披露目はパリでのクチュールコレクションでした。

ラフ・シモンズのコレクションは、ガリアーノのDiorにあった、華麗さ、流麗さ、大胆さ、突飛さ異次元と言うよりは、別世界に連れていってくれるようなコレクションではありませんでした。けれど、これがラフ・シモンズのDiorの世界なんだ!!という片鱗を見たような気がします。

ラフ・シモンズはアートの力を伸ばす要素の欠片もない人口6000人足らずの田舎街で生まれ育ち(皆、そうなんだけどさ)、そこでレコード屋にあったニューオーダー「権力の美学」のカバーアートに感銘を受けたそうです。薔薇の花が描かれていて、ともすれば何のこともないものですが、これに心を動かされてアートというものに心のエネルギーを向け始めたそうです。何かに感動する力こそが才能であり、そうでなければ全てのアートも無意味なものでしかありません。感動出来るという意味で彼には才能と感性があったのでしょう。

でも「権力の美学」は良いアルバムだし、「エイジ・オブ・コンセント 」は最高の曲だからラフ・シモンズでなくても感動するさ、そりゃ。

ガリアーノ時代のDiorは派手で、荘厳さと威厳を兼ね備えたセットでショウが行われてきたけれど、ラフ・シモンズのDiorは簡素なものです。つらつらと椅子が並べてあるだけ。なんか個人的にはニューオーダーの曲を想い出してしまって、それで「権力の美学」のエピソードが頭に浮かんだ。

<追記>

と思ってたら、部屋ごとに色々な色の薔薇で装飾された部屋の中をモデルさんが歩いていくスタイルだったのね。オートクチュールのときのDiorのセットはやっぱりすごい!!下の写真のバックは青い薔薇だったのね。。。

何でか?と言えば、それはきっと、新しい方向性を生み出そうとする時に存在する空気がそこにはあったから。「権力の美学」はイアン・カーティスというバンドを象徴するフロントマンを失ったジョイ・ディヴィジョンのバンドメンバーが彼抜きで新しいバンド(ニュー・オーダーね、知ってるか。。。)を結成した2枚目のアルバムです。そこでは自分たちでしか生み出せない音楽を素直に生み出していこうとする音が鳴っています(つまり、1枚目のアルバムは無いものねだりで、昔の面影をひきずってきたということですけど)。そういう空気と、良い意味での自分らしさのようなものがあった。

個人的にはガリアーノのDiorを観た時程の一瞬で受けるインパクトは受けなかったけれど、あれだけ見事で、唯一無二の個性を丸出しにされたガリアーノのDiorの後で、それでも自分の色で勝負をするラフ・シモンズのコレクションは本物のデザイナーが自分の感性をかけて生み出した何かがあった。ガリアーノと同じことをやるなら、別に居なくても良い訳だしね。それ位の根性というか、意気込みがないとデザイナーなんかやっていられないんだろう。もしくは、自分のやりたいようにしか出来ない人々がデザイナーになるか。会社で働けないような人がデザイナーになるのか、そんなところかな。まあ、自分に他人と同じようなことを求められる事ほど、辛いものはないものね。恋愛とかさ。

「俺はラフ・シモンズだ」って言いたかったんだろう、人になびくようじゃDiorのトップは出来ないよ。

いずれにせよ、Diorにとっては新しい感性のもとで新しい方向性へと一歩を踏み出す良い機会にして欲しいです。

具体的ににコレクションをみてみると、ガリアーノのDiorではモデルがそんなに細いようには見えなかったんです。女性らしい柔らかさと、美しさをギリギリのところで引き出していた。もちろんファッションショーなので服が主役なんだけど、一人一人のモデルが主役のようだった。個々が際立っていた。ラフ・シモンズのDiorは偉大なフロントマンのいない、バンド全体で音を鳴らすような全体感とちょっぴりのさつなさを秘めた前向きさを感じましたとさ。つまりは、服が主役なんですよね、そんな印象を受けたんです。クチュールコレクションだけど、着ることの出来るようなデザインが多いし、結構パクられそうなデザインも多かったのでDiorはこれからも売れ続けるんじゃないでしょうか。Dior Addict との相性は今のところ、それ程良いようには思えないけれど、ラフ・シモンズは結構良いバッグをつくってくれそうな気がする。靴はまだ未知数な気がする。。。

(でも、モデルさんは貧血気味に見えて、そういうはかなさを美しさと現実さにして融合させてしまうところがすごい。貧血気味だけど、幸薄そうなんじゃないんです。美しい。)

ということでプレタポルテのコレクションが楽しみになりましたとさ。

未だにブーティーなハイヒールを履いてホットパンツを履いて脚を長く見せている、ガリアーノがつくり出したDiorガールは、至るところで溢れているので、今度はラフ・シモンズが新しいスタイルを生み出してくれることを願うばかりです。

とは言え、ファッションデザイナーとかエディターの人たちって自分に合うスタイルを既に見つけているから、自分たちはいつも同じような格好してるんだけどね。アナ・ウインターとかさ、いつも同じスタイルだもんね。

個人的には今回(2012年)のクチュールはヴェルサーチが良いなと思いましたとさ。