スティーブ・ジョブズに感謝すること

偉人の逸話のようなものってインスタントに消費できる良質なコンテンツだったりする。とくにこのネット時代では。つまり、インターネットというのはもう目新しいことはなく、ふうつの人がふつうの人に向けて、ふつうのことをするものに落ち着いた、ということなんですよね。

さて、そんな中でもどんなメディアを通してでもスゴイものは人を惹きつけるもんです。

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Photo credit: whatcounts via Visual hunt / CC BY

スティーブ・ジョブズジョン・レノンビートルズのメンバーと「ストロベリー・フィールズ・フォーエヴァー」の修正を繰り返す10あまりのセッションをテープに録音した海賊盤を宝物にしていたそうです。

これは複雑な歌で、何カ月も行ったり来たりしながら完成させてゆくクリエイティブなプロセスには本当に心を打たれるよ。ビートルズではレノンが一番好きだな(1回目の録音をレノンが止め、戻ってコードを修正するところでジョブズは笑った)。いま、ちょっとやり直したのに気づいたかい?良くなかったから、戻ってやり直したんだ。このバージョンは全然洗練されていない。これを聴くとビートルズも単なる人間だったんだって思うよ。ほかの人でも、このくらいならできるはずだ。曲を考え、書くことはできなくても、このくらいの演奏ならできる。でも、彼らはここで止まらない。みんな完璧主義者で、とにかく何度も何度もやり直すんだ。このことに、僕は30代で強い印象を受けた。彼らがどれほど真剣に取り組んだのかが分かってね。

そうそう、ストロベリー・フィールズ・フォーエバーは最初はジョンのアコースティックギターでの曲作りから始まって、サイケデリックなバージョンになり、最終的にはスローでありながらカラフルな色合いをつけたものに仕上がる。ラバー・ソウル以降のビートルズはレコーディングにどんどん時間を使うようになって、まったく新しい表現を求めるようになる。

ビートルズはホワイト・アルバム時期になると、セクシー・セディとかTake99あるからね、これもジョンの曲だけど。Take99ってどんだけレコーディングしているんだろう? そこまでこだわって仕事できます?

録音と録音のあいだにも、さまざまな作業がおこなわれている。何度でも繰り返し、少しずつ完璧なものにしていったんだ(3回目の録音について、演奏が複雑になっているとジョブズは指摘した)。アップルでの物作りも、同じような方法を取ることが多い。新しいノートブックやipodを作るときのモデルの数だってそうだ。たたき台を作ったあと、それを改良して改良して、デザインやボタンや機能など、細やかなモデルを作るんだ。大変な作業ではあるけど、繰り返すうちにだんだんと良くなり、最後は、こんなのいったいどうやったんだ!?ネジはどこに行った!?って具合になるんだ。

たかがビートルズの曲から、これだけの含蓄を得てしまうジョブズはすごい。天才とは感性のことであり、このプロセスに深い感動を覚えて自分に取り込んでしまうことだ。すごい体験をすればいいということはまったくない。そこら辺に転がっている体験でいい。それをどう感じて何をつかみとって自分のものにしてしまうかなのだと思う。ものづくりのプロセスの肝心なことについて、ぼくもストロベリー・フィールズのデモテープを聴いてそう思った。まあ、実行はできていないのだけれどね。ジョブズに感謝しているのはこういう形で本質を残してくれたことであったりする。本質が残って継承される限り、もっとよいものは生まれていくのだから。 

ただ、ジョン・レノンならアコースティックギターと彼の声があるだけで十分なんだけど。