アナ・ウインター(Anna Wintour)の真面目さ

最近のアナ・ウインター(Anna Wintour)のインタビューを読むと、本当に真面目(仕事に対して誠実であるという意味で)なんだなあと思う。大体において、良い仕事をする人は自分のやっていることに対して誠実です。もちろん、その為に周りの人たちにとっては傍迷惑な人になったりするけれど、それにはそれだけの理由があるのではないでしょうか。

何よりも、売上も含めた VOGUE の地位、位置づけを一番良く理解していたのが、アナ・ウインターってことで。ただ良いファッション雑誌や、ただ売れるファッション雑誌や、ただ広告を載せまくるファッション雑誌では VOGUE じゃないんです。あらゆる要素を洗練されたレベルで融合させてこそ、VOGUE なのです。赤い文字の広告があるようでは、それは VOGUE ではないんです。

同時に編集長というのは企業のCEOみたいなもので、売上への責任も持っています。株主に経営報告をするが如く、自分の役割は VOGUE を発行しているコン・デ・ナストの会長であるニューハウスにあらゆる点で良い報告をする、ということだとも彼女は理解してます。会社なので、それは当り前ですが、ただファッション好きな女の子には「仕事」というのはちょいとばかし荷が重いです。それはゴシップやスキャンダルとは別の世界の物事です。

でも、アナ・ウインターはそれを心得ている。それどころか、セレブカルチャーやゴシップの世界と、会社的な世界の両方をアナは行き来出来ます。じゃなけりゃ、LVMHグループ会長のベルナール・アルノーがデザイナーの件などで、アナに相談したりはしないでしょう。セレクトショップのバイヤーとはやっていることの意味合いがまったく違うのです。高校中退なのに、どこでそんな勘どころを覚えたのか、アイビーリーグを出て一流雑誌を渡り歩いてきたアナの部下たちでさえ、同じことが出来る人が何人いることか。

直感で生きている人は強いです。いや、下手にお勉強しなかったのが幸いしているのかも。お金持ちの家で金銭的に困ったことはあまりないだろうとは言え、何度も業界の最低賃金の職から這い上がってきた人は根性が違います。

アナ・ウインターが編集長として最初に手がけた US VOGUE の表紙は、上半身を綺麗に着飾ってブルージーンズを履いたイスラエルのモデルを起用するという既定路線から外れたものでした。それまでの VOGUE の表紙はと言えば、↓ こういった魅力的なモデルによる伝統的な顔のショットであるというのが定番だったんです。

これが、変わったので印刷会社の人がびっくりして VOGUE に本当にこれでいいのか?と問い合わせたそうです。

Anna: VOGUE であるということは、ちょっとした「コト」なのよ。何か意味あることでなければならないの。それは保証であり、妥当性なのよ。「表紙」については、全く計画されてなかった。わたしはこう言っただけ「いいわ、これを試してみるだけよ」そして、わたしたちはそうしたの。本当に自然なことだったのよ。「これは新しいものだわ。今までとは違うものなのよ」ってわたしに語りかけていたのよ。あの表紙のことで印刷会社がわたしに電話を寄こしたのを覚えているわ。どうも彼らは「間違った表紙」の印刷を依頼したと思ったのよ。そして「これが、本当に VOGUE の表紙なのか?」って確認したの!

逆に何も知らないからこそ、自分の本能や直感に従う決断が出来るのかもしれない。中途半端な知識や経験は本当に大切なものを隠してしまうのかも知れない。

今、多くのファッション雑誌でモデルの身体の半分以上が表紙に使われているのは、アナ・ウインターのお陰だとか。最初に何かをやる人というのは、とてつもなく重要だけど、いきなりは理解されないものです。

Anna: わたしは何も知らなかったし、何も気にしなかった。わたしのやり方が良くないっていうのは確信してる。でも、マーケットリサーチについては全く気にしないの。結局のところ、わたしは自分の本能に反応するのよ。時にはそれが成功する、ご存じの通り、時にはそれは上手くいかないこともある。でもね、思うに、自分の信じるものに忠実じゃなきゃなね

この後、アナ・ウインターは今で言うところのセレブを VOGUE の表紙に起用して「アナの VOGUE」の売上は上昇し続けることになった。誰もやったことのないことをやった方が、成功というか得られるものは多いのかもしれない。

Anna: 最初にマドンナを表紙にした時には、かなりの批判を受けたのを覚えているわ、ご存じでしょ。「マドンナはもう流行じゃない、彼女じゃ売れないよ」って言われたもの。まあ、ちょっとリスキーではあったわ。でも、売上が40パーセント上昇した時、それは「わたしたちの目を覚まさせるもの」になったのよ

結局のところ、VOGUE が VOGUE であるためには VOGUE なりの最先端である必要がある。伝統を守ることが重要ではあるけれど、VOGUE の場合には最先端であるということが「伝統」であってそれを一番真面目に、と言うより、自分のこととして本気で真剣に考えていたのは、アナ・ウインターだった。自分のこととして本気で真剣に考えた場合、変化も厭わなくなります。周囲の声はエゴの声のように、雑音程度のものでしかなくなります。最先端の定義は時とともに変化するので、それを察知して自分を変えていけるのが、アナ・ウインターの最大の強みかもしれないです。

やっぱ、根性あるよね。