MUSIC: なぜ、テイラー・スウィフトは世界最大のポップスターなのか その5

テイラー・スウィフト新曲公開しましたね。新しいかと言えば、新しくないですよね。英語圏のシンガーがやれることはやり切ってしまった感もあって、ティファニーの広告みたいなMVをつくっていたテイラー。Redのころを思いだしてみたいですよね。

8588950448_ebe404346a_h

Photo credit: janabeamerpr on Visual Hunt / CC BY

www.vulture.com

テイラーはヘンダーソンビル ハイスクールを16歳で辞めた。

これは彼女にとって良いことだった。しかし彼女の曲があの「学校」という風景から切り離されることはなかった。テイラーはいまだにカースト制度、派閥、社会的ヒエラルキーにとりつかれている。

「22」でテイラーは「クール キッズ」で埋め尽くされたパーティでの感情を歌っている。「We Are Never Ever Getting Back Together」では「自分よりもはるかにクールなインディーレコード」をかける元カレのことを冷やかす。

テイラーの絶大な人気というのは、彼女が演じる人気のない女の子のことなのかもしれない。3,670万人のTwitterフォロワーが望んでいるのも、そういった人気のない女の子をテイラーに望んでいるのかもしれない。テイラー以外の歌姫たちが提供するのは、不死身でジャックブーツを履いて大股で闊歩するスーパーヒロインなのだ。

テイラーは別のイメージを提供する。


「You Belong With Me」をティーンムービーの文脈で考えてみよう。実際のテイラーは疑いなく、ブロンドで脚が長く、自身に溢れ、才能があり、世界の有名人だ。しかし、この歌の中ではちがう人格の立ち位置を取る。彼女は観客席の1人で、壁の花(ダンスパーティなどで相手にされない女性)、負け犬なのだ。

テイラーはラブ・ソングを書くことで有名だ。しかも失恋、とくに執念深く、恋い焦がれる失恋なのだ。

彼女のデビューアルバムのライナーノーツにはこんな箇所がある。「クールでわたしの心を張り裂けさせた男の子たちへ、分かる?ここにある14の曲はあなたたちに向けたものよ。HA!」当時、この男の子たちはテイラーの通っていたハイスクールの同級生たちだった。しかし、彼女はミュージシャンやムービースターと付き合うようになっていった。近頃では、テイラーの歌詞に出てくるセレブを当てることがメディア上での言葉遊びになっている。

多くの有名人と同様に、テイラーはタブロイドのゴシップの詮索に不満をもらす。

事実、彼女は油に火をそそぐようなことをする。「I Knew You Were Trouble」で2013年8月にVMAで最優秀女性ビデオ賞を受賞した際に、こう発言している。「この曲にインスピレーションをくれた人に感謝しているわ。誰だかわかっていると思うけれどね」。この発言でOne Directionのシンガー、ハリー・スタイルズについてのツイートが爆発的に広まった。ここで、仕事にちゃっかりしたビジネスウーマンを想像しない訳にはいかないだろう。ゴシップの種が広まり続けてもテイラーの評価が下がることはない、しかしながら、テイラーの報復的な行為は非難ももたらしした。

暴露魔、金持ちの子供、被害妄想の性悪、テイラーが獲得してきた悪評ではある。テイラーはカン高く騒ぐこともできる。

ジョー・ジョナスがテイラーを捨てて女優のカミーラ・ベルと付き合い始めたとき、彼女の反応は「Better Than Revenge」(2010)だった。「彼女は女優/彼女は有名/(女優ではなくて)彼女のやっていることで/マットレスの上でね」、テイラーはこの曲の中でふしだらな女を侮辱することに時間を割いている。

「Dear John」はジョン・メイヤーとの浮気の歌だとされている。やさしいメロディだが、自己正当化と自身の未熟さからくる未熟な主張で固められているー「わたしは若すぎたと思わない?/面倒に巻き込むには」。

テイラーはずっと批判にさらされてきたが、それらを受け流してきた。

「どのセレブにも偏見があるのよ。わたしは自分に対しての偏見について分かっているわ。『Oh、テイラーが破局した。Oh、テイラーが恋に落ちた。男は彼女の心を引き裂く。テイラーはいつだってさみしい孤独な女の子だ』。こんな感じよね」。

「みんな自分の言いたいことを言って良いと思うの。それはみんなが経験してきたリアルな感情なのだから。自分を傷つけるような人に怒ることだってあるのよ。何もあなたにもの凄く影響をおよぼそうとするような出来事でなくてもいいの。わたしはソングライターだから。あらゆるものがわたしに影響を与えるの」。

6966829965_dc2e4e96ce_b

Photo credit: Eva Rinaldi Celebrity and Live Music Photographer on Visual hunt / CC BY-SA

「わたしはソングライター」、確かにこれは適切な答えだ。

音楽で復讐を描く伝統は中世から脈々と受け継がれている。そしてそれは最初のブルースマンが自分をぞんざいに扱った女性のことを、甘美な12小節にしたときからアメリカ音楽の主流であった。ボブ・ディランは時に救いがたいキス・アンド・テラーであるし、長い間、ロック批評家たちはエルビス・コステロのこの有名な引用で説明してきた。「曲を書くたった一つのモチベーションは復讐と罪悪感なんだよ」。

ドレイクの新しいアルバム「Nothing Was the Same」は「ビッチ」と「ブーティーコール」(セックスが目的の電話)のカタログだ。彼はついに「ピーチツリーシティのフーターズのコートニー」という一般人の元カノの名前にさえ及んだ。テイラーの麗しき元カレよりもひどい。

テイラーの告白から性差別のダブルスタンダードをみつけようとするのはむずかしい。ロッカーやラッパー、みすぼらしいインディーバラードを歌う連中の女性差別を考えるとそれはされにむずかしいのだ。テイラーは若い女の子で、男の子とデートする。恋にも落ちるし、恋に破れることもある。そしてこれらを歌にする。わたしたちは彼女のミューズに対してねたましく思わないといけないのだろうか?

テイラーのことを、この世代の詩人と言うこともできるだろう。テイラーは昔ながらの曲つくりの楽しみの中にミレニアル世代のソーシャルメディア共有を混ぜ込むのだ。

テイラーの情報発信の巧妙さにはうたがいの余地がない。

「Red」の中で中心になる曲「All Too Well」ではソングライターの Liz Rose と共作している。このコラボレーションはしばしばみられるものだ。

ネットの噂を信じるのではあれば、「All Too Well」は俳優のジェイク・ジレンホールのことで、ジェイクは2010年末にテイラーとの関係でタブロイドを賑わせた。U2の「With or Without You」のようなベースラインの上にゆったりとしたウェーブが昇ってゆくようなバラードだ。いつもの逆襲がきびしく、韻を踏んでやってくるのだ。
 
「また電話してくるのね/守れない約束みたいに/私をボロボロにしてしまうのよ/誠実の名のもとに」

「All Too Well」もまた、懐かしい思い出のモンタージュではある:曲の中では「二人で車のなかで歌を歌ってて/ニューヨークの北で迷ったこともあった」「冷蔵庫の明かりで、キッチンで踊ってる」カップルの姿をとらえている。

これもテイラーらしいのだが、彼女が彼の実家で子供のころのアルバムをめくっているときの彼の反応を観察しているのだ。

「カウンターの上のフォトアルバムを見ると、あなたは照れて赤くなってた/メガネをかけた少年のあなた/ツインサイズのベッドで寝てたんだね」

冷たくおさらばをするか、やさしいお別れとするかには特別なソングライターとしての能力が要る。

テイラーはこう言う。「あるやつから聞いたのだけれど、Redについて『アルバムを聴いたんだけどね、心が痛む経験だったよ。思い出のアルバムをめくるようだった』だそうよ。いいことよね。わたしがそいつからもらったあきれるようなEメールよりもマシだわ。2人の愛が素晴らしかったことを眺める成熟したやりかたよね、それがひどいものになるまでってことだけれど。2人とも傷ついて、1人がソングライターだったっていうことだけのことなのよ」。

彼女は目をまるめてこう言った。「それで、どうするつもり?電話する前にWikipediaもみてないわけ?」。