ジャクソン・ブラウンの言うジョン・レノン

通常の音楽雑誌と違い「Rolling Stone」誌の特注号ではミュージシャンがミュージシャンについての文章を書いてくれています。これは以外や以外に貴重なことで、レニー・クラビッツがデビューアルバムを作る過程でジョン・レノンのソロ作品に出会って衝撃を受けたことや、エディ・ヴェーダーがカート・コバーンのヴォーカルのどこに感動したかなどを知ることが出来ます。同じく音楽を作るものとしての目線で偉大なミュージシャンたちを見直すことが出来るのです。ボノがボブ・ディランについて書いた文章とか読みたいでしょ?そんなことない?


「100人の偉大なシンガー」のコーナーではジョン・レノンは堂々の5位入賞。ジョンのヴォーカルについてジャクソン・ブラウンが文章を寄稿しています。恥ずかしいことにこの時までジャクソン・ブラウンが何者か知らなかったけど、彼の文章を読むと、ふむふむと頷くものが多くて、新しいジョン・レノンを発見した気分になる。最も印象的なのはこの一節ではないでしょうか。

John Lennon went through a lot to have the life he had. He gave up some things to get others. And he died before a lot of those themes could be examined. But it was a stunning thing — he always told the truth. He felt he had the right to talk about this stuff, and that gives his voice a singular identity. It's not the chops of a heralded singer — no one goes on about his actual technique. He went right to what he felt, what he had to say.
ジョン・レノンは自らの人生を生きるために、多くのものを乗り越えてきた。あるものを得るために、他のものをあきらめもした。そうやって得られた、彼の人生哲学とでも言うべきものの多くが吟味される前に、ジョンは亡くなってしまった。しかし、彼のやったことは素晴らしいことは素晴らしかったのだ。彼はいつも真実しか口にしなかった。彼は真実を話す権利があると考えていたし、それは彼の声を唯一無二のものにした。みんなが認めるような、いわゆる「上手いシンガー」ではない。しかし、誰一人としてジョンの歌い方を真似ることは出来ない。彼は、自身が感じたもの、言わなければならなかったものへ向かったのだ)

僕は最初「真実しか口にしなかった」ということが、ジョン・レノンが感じたビートルズの虚構性や「Working Class Hero」で言っていることを指しているのだと思っていた。つまりはあえて危険を冒してまで、シニカルなことを言っていたということだと。

でも、それは違った。最も重要な視点は最後の部分「彼は、自身が感じたもの、言わなければならなかったものへ向かったのだ」というところ。もちろんジョン・レノンは平和を歌った人だけれど、ドメスティックバイオレンスもしたそうだし、浮気や不倫もしたし、まあ色々と人に褒められないことも沢山した。

キリスト発言で針のむしろに立たされたときは、心底びびった自分に腹が立った、と言っていたし。何というか普通と言えば普通の人で、ただ感情の感じ方や飛び抜けていたり、それを表現する力が飛び抜けていたりする結果、自分を素直に言わずにはいられない場合に表現出来てしまう人だった。自分を素直に表現することは、拒絶されれば傷つくし誰でも気前良く出来ることではないし、人によっては危険な行為でもある。

ただ、やはり自分の気持ちをまず素直に表現してみないことには、自分の人生というのは始まらない、ということをジョン・レノンはその人生をかけて伝えてくれたのだと思う。何も素直に表現する相手は世界でなくても、出会う人々すべてでなくても良い。まずは自分と向き合ったときくらいは、自分に素直に向き合ってみることに価値があると思う。自分に、自分が感じたこと、言いたいこと言ってみよう☆

実は僕はこれがずっと出来ていなかったけど、最近、自分を繕うことや、周囲に合わせることを止めてみたら本当に欲しい言葉を言ってもらったりした。少なくとも相手の機嫌を取っていては絶対に貰えないような言葉を。その嬉しさというのは、感じてみないと実感できなかったけれど、ちょっとした事件みたいに自分の人生を変えてくれますよ。

ジャクソン・ブラウン素敵な文章をありがとう。

しかし人生を重ねれば重ねる程にジョン・レノンの偉大さがひしひしと伝わってくる。どうやったら、あんな凄い根性が湧き出てくるんだろうか。だから長生きするのは良いことです。