アナ・ウインター インタビュー at 92nd Street Y on May 2009

オリジナルテキストは Mike Vilensky という人の「Anna Wintour Addresses Rumors About Leaving Vogue, Michelle Obama, the Recession, and More」という記事です。Anna Wintour が VOGUE を去るのでは?という話はちょくちょく話題になりますが、それに関連すると、こういうインタビューとかが出てきます。2009年のものですけど。 

8412190693_4c42f12cc7_h

Photo credit: Dilia Oviedo's Fashion Week via Visualhunt / CC BY-ND

リーマンショック後の状況を加味してインタビューがされています。人前に出るだけでひと悶着あるようですが、質問には淡々と答えてくれています。意外と状況を冷静に見ているなというか、分からないことは分からないで、自分の範疇のことだけを答えている点が、いいなぁと思いました。アメリカ版 VOGUE 編集長であるとういうことは、全能である必要はないということです。

アナ・ウインターは完璧な人間ではありませんが、自分の欠点も含めて人にそれを見せることが出来る稀有な人です。なので、細かい点は気にせずに、彼女の本質を見ていくと勉強になります(何の?)。知ったかぶりして完璧に見せようとする人よりも、はるかに大物です。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

滅多に公衆の面前に姿を現すことのないアナ・ウインターが 92nd Street Y で Jonathan Tisch のインタビューに答えた。話題は VOGUE が不況の中でどうやってその適切性を保っているのか、多くのお金を使わずして「様になる」ようにするのか、について及んでいる。

PETAのメンバー(People for the Ethical Treatment of Animalsの略、「動物の倫理的扱いを求める人々の会」のこと。アナが毛皮を着るのでたまに抗議をする)が邪魔をしなければ、毛皮についても話が及んだかもしれない。「この女性は生きている動物の皮を剥ぎます!」とPETAの連中は叫んだ。彼らはバルコニーの上にバナーを掲げて、アナを恥と称した。アナの表情には、礼儀をわきまえた抑制と「ここには安全なんてものはないの?」という感情が織り混ぜられていた。

「Fur Shame! Fur Shame!」(毛皮は恥!毛皮は恥!)の文句をかき消すように、聴衆の一人が「I love you, Anna!」と叫び、拍手をとどろかせた。ウインターは彼女を野次る連中に目を見定めると言った「毛皮はまだファッションの一部よ。だから VOGUE はこれからも毛皮のレポートを続けるでしょう」。92Y のスタッフが動物愛護過激派を部屋から退室させると、ウインターはおどけて言った「わたしが言っているのは、ファッションは人それぞれに違う意味を持つということよ」と。

次の号の表紙になるミシェル・オバマの話についても触れているインタビューのハイライトをお読みください。


あなたは、怒りを抑えられないようになったら仕事を変わるときだと言ってきましたね。あなたは他の選択肢を考える時期に来てきますか?

そうね、わたしは大抵次の日のことを考えているわ。この世界で最高の仕事に就いていると思う。正直に言って、他のどんなことも上手くやれるとは思っていないのよ。

VOGUE を現行のまま保つのはどうやっているのですか?

自分が何者であるかを正確に覚えておかなくてはならないわ。そしてパニックにならないこと。

VOGUE が Recession Weekly になるべきだとは思わない。でも、同時に世界で何が起こっているのかには敏感になる必要がある。わたしたちのファッションの選択に関して言えば。。。わたしのオフィスに服のかかったラックが運び込まれて来る、そして服が雑誌でどのようにあるべきなのか、あるべきでないのかを議論するわ。

一年以上前までは、服の値段についてはとても自由だったの。わたしも、おそらく深くは詮索しなかった、コストがどれ位かということについて。今わたしはオフィスに持ち込まれる服の一つ一つの値段を尋ねるわ。思うに、多くのエディターたちがちょっと驚いているわよ。名も知らぬデザイナーの小さなスパンコールのドレスがどんなものかについて。もしそれが25,000ドルなら、こう言うでしょうね「オーケー、そうね、今回は違うわ」。

わたしたちは、より若いデザイナーをサポートすることに目を向けていたの。アレキサンダー・ワンやプロエンザ スクーラー のような価格に優しいデザイナーたちね。でも、同時にわたしたち VOGUE は  VOGUE よ。わたしたちは、ファッション産業を代表している、そしてファッション産業でベストなものを見せなければならない。それは変わっていかないのよ。

何がミシェル・オバマを表紙に起用させたのですか?

彼女は(大統領選の)キャンペーンの期間、謎めいて、強さを持ち、素晴らしい個性を持った女性として現れた。最初はアメリカの心を掴むまでに、彼女も苦労したと思うわ。そして、わたしたちには興味深かったのよ、彼女が変わっていくのが。ミセス・オバマはファッションを愛しているってね。彼女はファッションを愛してはいないの、ワシントンにいる人たち、つまりファッションを恐れているような人たちと同じでね。彼女は信じているの、それはわたしたちが VOGUE を通して信じていることと同じことよ。つまり、独立した働く女性になることは、茶色のペーパーバッグを持ち歩かなければならない、なんてことは意味していないとね。

いつもワシントンはわたしたちを軽蔑しているか、理解していないか、(わたしたちを受け入れる)準備が出来ていないかのように感じたわ。そして、今、自分たちをサポートする政府を手にしているの。

今の時代において、ファッションエディターの役割とは何でしょうか?

今では、あらゆる側面からファッションを取り上げるメディアが沢山ある。わたしたちの仕事は、そういったもの全てを通して掘り尽くして行くこと。そして、雑誌を読んでくれる読者たちが選択するのを手助けすること、それと、わたしたちが何を観ているのかということを説明することね。今、ファッションについてはほとんど情報が溢れかえっているところよ、「わたし」は混乱してしまう!

VOGUE で人を雇用する際にはどうするのですか?

わたしは本当に直感で採用するわ。わたしに迎合しようとしない人を探す。 Andre Leon Talley や Hamish Bowles のような個性というのは VOGUE にとって本当に重要なものだと考えているわ。マーケットリサーチについて多くのことを語る人もいるけれど、わたしはそういったものを信用したことが一度もないのよ。

25年前と今の VOGUE 読者の違いは何ですか?

今の読者というのは、ファッションについてとても多くのことを知っている。ホントに、とんでもなくね。わたしたちが知らないデザイナーのことまで話してくるのよ。わたしたちがブライアント・パークのテントから出てくるように、読者たちはオンラインでコレクションを見ているのよ。

ファッションの世界において、民主化というものはあったでしょうか?多くのお金を使わずして自分を良く見せることは可能ですか?

ええ、それこそこの5年で変わった最も素晴らしいことの一つだと思うわ。カール・ラガーフェルドのようにH&Mコレクションをデザインするデザイナーを見たり、そのコレクションが売り切れたり、もしくは、Target の為にデザインをしているとても高名なデザイナー達をみるのは、とても素晴らしいことよ。より多くのファッションがより沢山の人々の手に入るのだから。

デパートの支配人というのは、今日においてどんな役割なのでしょうか?

一緒に仕事をしているわよ。デパートも VOGUE もデザイナーが地球温暖化について理解できないことと格闘している。事実、デザイナーたちは6月の中旬や7月に女性が3重のカシミアやフェルト、毛むくじゃらの生地を着たいと思っているの。だから、わたしたちが行って、こう言うの「たぶん、これは賢明なやり方じゃないわね」とね。

不況は雑誌作りにどのような影響を及ぼしていますか?

わたしたちは、自分たちが作り出せる以上の投資をするべきではないとか、そういった感覚は会社では全くないわね。わたしたちは常に数字については気にかけているし、それは新しいことではないわ。コンデナストのために仕事をすることの最も特別なところは、ビジネスサイドから編集費用について一切のプレッシャーがないことや、広告主に対してゴマスリをしなくても良いところね。会話に上ることにさえならないわ。

小売というものはずっと変わってしまうんでしょうか?

わたしが思うに状況が劇的に変わったのは昨年(2008年)の秋のことね。いくつかの小売業者はパニックになった。明らかに大幅な値下げ状況が起こった、思うにそれはやり過ぎだけれど。誰も価値というものが何であるか、分からなくなった。でも、時代は終わったのよ。先週、ニューヨークで最大の店舗とミーティングをしたわ。時代が変わってしまったと彼らが感じるのは、何の疑問もない。ただ、彼らはより慎重に買うようになった。

ニューヨークはファッションショーのためにはどうなのでしょうか?

今では、多くのショーがあり過ぎる感じがする。ブライントン・パークは自然な経過をたどったわね。彼らはもうわたしたちを必要としなかった。スペースはあまりにも小さいと分かった。リンカーン・センターへの移転はファッション・コミュニティの為にとても精力的に行われていそうね。

メトロポリタン美術館でのコスチューム・ガラの)テーマ 「Models As Muses」は今年に相応しいと思いますか?

今年のテーマは特に重要ね。世界中がある種のセレブで溢れかえっていて、ファッションの世界を見た時にその言葉が確かについてまわるのよ。だから、歴史というものにみんなを連れ戻して、実際にデザイナーとポピュラーカルチャーにについてのモデルの影響を見ようと思うの。とても面白い分析だと思ったわ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

地球温暖化しているかどうかは脇に置いておいて、初夏にカシミアを着るなんて馬鹿げている、という方向に話を持っていくのです。自分の見ている世界を伝えられるのです。賢そうにすると、社会活動的な発言をしてしまいますが、アナ・ウインターの目にはデザイナーの感覚だけでは服は売れんし、もう少し考えろ!!ってこと位しか頭にありません。

やっぱ、学校に行っていないで自分の直感で生きてきた人は強いです。これぞ、プロ。自分の役割と感性とを良く理解している。