アナ・ウインター 小話 その16 アナ様にコーヒーを買いに行くの巻

プラダを着た悪魔ではメリル・ストリープにコーヒーを買いに行かされるアン・ハサウェイ。そんな彼女を応援しながら映画を観る、なんてのはおとぎ話のようなもの。実際の悪魔ことアナ・ウインターはどんな風にコーヒーを調達するのか?自分で買っている画像も出回っているけれど、やっぱりアシスタントを走らせるはめになるようです。

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Photo credit: LGEPR via Visualhunt.com / CC BY
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アナ様にコーヒーを買いに行った話がありましたよ。

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すべての女の子の夢、少なくともファッショニスタにとって、それは、 Vogue の魔法のような「裏側」の世界を垣間見ること。

ジャーナリズム専攻の学生として、そしてファッションを愛するものとして、わたしの夢はまさにその通りだった。でも、達成されることは不可能のようにも思えた。学位の取得を終えて、パリでの修士課程に応募をし、これからの新しい未来に自信と幸せを感じながらブラジルを後にした。クロワッサンにチョコレートパン、毎朝の朝食にわたしはそれらをむさぼるように食べるんだと思った。

パリに来てから1年後、わたしはパリにあるコンデナストのオフィスのベルを鳴らしていた。アメリカ版ヴァニティ・フェアインターンシップのインタビューのためだ。Vogue でなくとも、その場にいて、このチャンスがあるということにわたしは興奮しどきどきした!わたしはインターンシップの権利を得て、すぐに働き始めた。1か月後、わたしはアメリカ版 Vogue のある下の階へと異動したのだ。

パリでアメリカ版 Vogue のファッションアシスタントとしての最初の日のことをはっきりと覚えている。わたしと同じ状況であれば、みんなそうだと思うけれどね。それはオートクチュールファッションウィークの初日だったというだけでなく、アナ・ウインターとその同僚たちが街にやってきた日だったから。


午前9時きっかりに二階のフロアへ上がるときから、オフィスのあらゆるものを綺麗にするよう大慌てしている人たちを見てとれた。窓を開け、エアコンのスイッチを入れ、花を受け取り、ミニバーのペリエコカ・コーラ・ライトを補充するのだ。

わたしの最初の仕事:ニューヨークに送り返さなければならないアナの服がすべてつまった荷物を受け取ること。ルイ・ヴィトンのバッグを開けてリストをつくらないといけなかった。D&Gのトップス4着、Lanvinのドレス1着、マノロ・ブラニクの靴1足、トイレタリーバッグ、中身はシャネルのクリームとN°5、歯ブラシ、歯磨き粉、リッツ・パリのフェイスタオルに巻かれたキールズのシャワージェル。。。

その日二番目の仕事:オフィスのみんなにランチを用意すること、わたしも含めて。みんなの要望をきちんと書きとめた5枚のポストイットを手にしてオフィスを出た。"プーレヴェール"サラダ、ミニタイのサラダ、jus d’orange gingembre(最後の1つはジンジャーの入ったオレンジジュースのこと)などなど・・・

その日の午前中、わたしは大いなる期待をもってデスクに座っていた。プラダを着ているという悪魔に遂に出会えることを待ちながら。

そして、偉大なるグレイス・コディントンがご到着、アナはまだ来ない。

ランチの後、わたしはアナはもう来ないのでは?と思い始めリラックスした。自分の格好を心配するのをやめた、ドレスは縮れていないか?などなど。。。

それは突然のことだった。

わたしがコンピュータ・スクリーン上にある自分のメールボックスをみていたとき、誰かが嵐のようにオフィスへと入ってきた。実際、彼女はわたしの背後にいた(それでも象徴的なボブカットで分かる)。そして「Hi」という代わりに、わたしにスターバックスのコーヒーをオーダーした。



わたしはちょっとしたショック状態だった。1メートル先に「あの」アナ・ウインターがゴージャスなドレス(おそらくDior)を着て立っているのだ(悪魔はDior「も」着るのだ!)。他の人たちはわたしをスターバックスへ向かわせるタクシーを呼ぶのに忙しくしていた。

ふつう、誰かがあなたに「コーヒーを買ってきて」と言えば、あなたは「わたしのことを何だと思っているのよ?このバカ!!」と思うだろう。でも、マダム・ウインターのためにコーヒーを買ってきてと言われたら、嬉しくて跳び上がるだろう。そして女の子がオフィスから一番近くにあるスターバックスを探して、通りを必死に駆け回る映画の中のシーンを想像するだろう。

わたしがタクシーを待っている間、アナは部屋にもどってきて何かを言い始めた。二人の同僚は電話中だが、アナは話すのをやめないし、キッ!っと厳しい目でわたしを見て話し続ける「・・・Diorのショーをオンラインでみるように、黒いドレスよ。スパイダーマンにはその方がいいわ」。

「わかりました」これがわたしの答えだ。

最初の言葉を聞き逃してしまったから、深く沈んで本当に心配した声。わたしはアナが誰にメールを送って欲しいのか聴いていなかった。

このバカ!!今さらミセス・ウインターにきけないわよ!!

「すいません、誰にメールを送ればいいですか?」幸運にも電話に出ていた一人の同僚がアナに訊いてくれて、最初の大きなへまをやらかすところを救ってくれた。

タクシーが到着すると飛び乗る。アナがコーヒーをオーダーしてからここまで少なくとも10分はかかっている。

何てこと!!アナは怒るわ!!スターバックスに到着すると、ありえない位の待ち行列が!!わたしはこう叫びたくなった。

「わたしはアナ・ウインターにコーヒーを買うの。道をあけて!!」

そしてとうとう注文をすると、こう言いたくなる。

「みんな、これはアナのコーヒーよ。わかる?」

とにかく、2つコーヒーを手にした後(1つはグレース・コディントンへのもの。もしもの時のために)、タクシーにもどる。オフィスに着くと、階段を駆け上がり、外出するところだったアナとぶつかりそうになった。コーヒーをアナに手渡し「お砂糖は?」と訊ねた。アナは「いいえ」とだけ言った。

これが アメリカ版 Vogue でのわたしの最初の日の出来事だ。あとになって、わたしは考えた。アナのコーヒーの温度が熱すぎたり、冷たすぎたりしなかっただろうか、いやどちらでもないと・・・

ところで、グレースへのコーヒーは誰も欲しがらなかったので、わたしが頂戴した。これで少なくともアナ・ウインターとお茶をしたと言えるだろう。

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まあ、こいつ出世しなそ~みたいな感じ(笑)アシスタントなんて我慢できない!!くらい強気の方が良いと思うよ。まあ、そういう人はアナみたく首になることもあるけど、長い目で見るとうまくいく。

しかし、良く考えるとアナ・ウインターってコーヒーを買いにいったりした時代があるんだろうか?想像できない。忠実に仕事をしてというよりは、色んな道をかき分けて昇っていったイメージ。